Asahara in LSD (1)   

1999年5月2日、当時住んでいた国での出来事だ。


アメリカに住んでいた友人のてっちゃん(故人)が僕のところに遊びにやってきた。

彼は僕のおねだりに応え、液体のLSDが入った小瓶を持ってきてくれた。

ある晩の事、てっちゃんが寝た後居間に一人残った僕は、たまには思い切りLSDでトリップしてみようと考えた。

一滴摂取すれば十分なのだが、少々欲張った僕は手の甲に濡らした相当な量のLSDを何も考えずに舐めてしまった。

舐めてしまってから自分のやった事が心配になってきた僕は、これから訪れるであろう大トリッピングにどのように臨むかを考えた。

今の量だと、30分後には目の前に神様がズラリと並ぶ事になる。





今日だけはバッドになる訳にはいかない、そう決心した僕は神様が喜ぶような何か善い事を考える事にした。

当時から僕は、産まれた時が赤ん坊だった以上本当に悪い人というのはいないのではないかという考えを持っていた。

罪を憎んで人を憎まずの言葉通りだが、そうは言っても修業不足の身にはとても看過できない事も多く、現実との板挟みに悩んでいた。

LSDには知覚を拡げる作用がある。

このトリップの力を借りれば、どんな罪人にも存在価値を見つけられるに違いない、そう思った時突然ある名前が浮かんだ。

オウムだ。

僕は、オウムが世を騒がせている間は外国にいたが、それでも彼らの所業はよく知っていた。

日本中を騒がせたオウム問題にも、これから迎える大トリップなら何かの意味をきっと見つけられるに違いない。'

そう考えた僕は、トリップの始まり出した頭で必死にオウムの事を思い出した。


10分もしただろうか。右前方に蓮華座を組んだ麻原彰晃が浮かんでいた。

彼は、たっぷりと笑みを浮かべながらこう話しかけてきた。


「あれは、俺がやったんじゃないんだよ」


幻覚のあまりの鮮明さと彼の言い放った言葉の無責任さに一瞬たじろいだ僕だったが、我に返った後幻覚に向かいこう聞き返した。


「あなたがそうやって無責任な事を言うからみんなが混乱するのではないんですか?」


すると彼はこう答えた。


「オウムのやった事、あれは全て俺の意志だ。だから全ての責任は俺にある。ただ勘違いするなよ。俺はあんな事をやりたい人間じゃないんだよ。」


それから彼はテレパシーのような形で事の顛末を伝え始めた。


彼の言う顛末とはこうだ。


1980年代、彼はチベットかどこかの地で修行中に悟りを開いた。

悟りを開いた彼は、世に恒久的な平和をもたらすため世界中の人類のカルマを引き受ける決心をした。

既に世の中には、処理しきれないカルマを抱えた人間が多数存在していた。

カルマは赦しによって昇華し得る。

カルマを抱えて彼の元にやってきた者に対し彼は、自分の名においてそのカルマを実行するよう伝えた。

日本中のカルマを抱えた人間が彼の元に集まってきた。

彼は、そのダメージが最低限で済むことを彼の想いを理解する数少ない信者たちと祈りながら、カルマを抱えた信者の胸に膨らむ歪んだ望みを実行に移させた。


彼の説明を一瞬の内にテレパシーで受け取った僕は、その説明に納得していた。

信者たちの反社会的な望みにそれをせよと言いつつも、裏でできるだけの無事を必死で祈る彼の姿が想像できた。

しかし、例えどのような想いがあったとしても人を殺めるような事が許されるはずがない。

そう思った僕は、再び幻覚である彼に聞き返した。


「しかし、いかなる理由があれ人を殺したり傷付けるのはよくないのではないですか?それによって今も多くの方が苦しんでいるんですよ。」


彼はこう答えた。


「それが人類の抱えるカルマである以上、オウムのやった事は何年か経てば必ず他の者が同じ事をやる。では他の者がやるのとオウムがやるのでは何が違うのか。他の者がやった場合は歯止めが効かなくなる恐れがある。しかしオウムの場合は、俺がやめろと言えばやめるんだ。わかるか?」

社会の抱える膨大なカルマは、いつかその臨界を越え爆発する。そうなってからでは遅い。そうなる前に麻原彰晃率いるオウムは、彼の制御の元にカルマを解放した。

言わばガス抜きのようなものか。


彼の意図をそのように理解した僕は、何も言えずそのまま黙りこんでしまった。


少しして彼が話しかけてきた。


「お前には、もう一人思い出さなければならない人がいるぞ。」


その時僕は、右手にタバコを持っていた。

そのタバコの表面に、とてもよく知っている人の顔が浮かんで見えた。


「プリンセスダイアナだ!!」


その瞬間、優しく笑みを浮かべたプリンセスダイアナが彼のいた場所の横に現れた。

世界中の人に愛されながらも非業の死を遂げたあのプリンセスダイアナが、僕の前にとても凛々しい姿で立っている。

正義に立ち上がるこの女性を前に見るなら、男なら誰でも、日本人の僕たちですらきっと立ち上がる事だろう。

涙が溢れ出た。

うち震える胸を抑え切れない僕に彼女は、彼女に関する本を読むこと、そして彼女の死の目的はいずれ霊となって人々の面前に復活し世界中の人を導く役目にある事をテレパシーで伝えてきた。

興奮した僕は、彼女を抱き締めようと立ち上がり歩み寄った。

しかし、いくらはっきり見えているとは言え霊体の彼女を抱き締める事はできず、彼女を通り抜けた僕はそのまま前にある壁に向かって進み続けた。

壁が目前に迫った時、僕はどのようにすれば壁をすり抜けられるのかがわかった。

壁をすり抜ける事ができたら、僕は物凄いショックを受ける。

つまり、物凄いショックを今自分に許すなら壁は抜けられるという事だ。


「本当に壁を抜ける!?」


ドキドキした。

あと10cm、5cmと近付くにつれ、初めて壁を抜けるかもしれないという興奮に心臓が破裂しそうになった。

壁まであと数ミリとなった時、もし壁を抜けている途中で我に返ったらどうなるんだろうという邪念が突然頭に浮かんだ。

壁に挟まって発見される自分を想像した瞬間、僕の意識と同化していたはずの壁は固い壁に戻り、額を思い切り打ち付けた僕は後ろに吹っ飛んだ。


まるで電源のスイッチを切ったかのようにシュンと、それまでのトリップが一気に醒めた。


もう二人の幻覚はいない。いつも通りの部屋、いつもの風景が目の前にあった。


「全部終わってしまった…」


今まで体験した事のないトリッピング。しかも壁を抜けるという超常的な体験ができたかもしれないのに、勇気を欠いたせいでそのチャンスを台無しにした。

がっかりした僕は、その場にへたりこんでしまった。

すると、さっきと同じように蓮華座を組んだ麻原がまた現れた。

彼は笑みを浮かべながらこう話しかけてきた。


「だーかーらー、壁を抜けるとか宙に浮くとかそういう超常的な事は俺たちが引き受けるから。お前はこれから出会う全員をただ愛しなさい。それで大丈夫だから。」


その時、隣室のてっちゃんが起きてきた。


「のぶ、何やってんだよ。」


最後の麻原の言葉に自信を取り戻していた僕は、トリップを利用して悪の代名詞であるオウムの真実を見出そうとした事、その結果麻原彰晃とダイアナ妃に出会った事、壁を抜けられそうになった事など今体験していた事を全て捲し立てて話した。


寝起きにとんでもない話を聞かされたてっちゃんはもちろん困惑したが、興奮の醒めない僕はそんな彼をよそ目に当時別居中だった嫁に電話し、彼女にも自分のした体験の素晴らしさを一生懸命伝えた。

僕の話を一通り聞いた彼女は、一言こう言った。


「病院に行きなさい」


「病院って、どの病院?」


「精神病院に決まってるでしょ!!」


確かにLSDを大量に摂取はしたが、その時の僕はいつも以上に正気だとの自信があった。

それに僕はふざけて麻原と会話した訳ではない。悪を解決したいとの想いから始まってこうなったのだ。

その後母親から電話があり同じ事を言われたため、彼女たちに言われた通り病院に行く事にした。

病院では、みんなに話したのと同じように医者にそのままを話した。

僕の話を聞きながら、医者は何かをカルテに書き込んでいた。

彼は、とてもよく眠れるという睡眠薬を処方してくれた。

家に帰った僕は、言われたままにその薬を飲んだが、心のどこかでそういう次元の問題ではない事を知っていた。

そしてその通りに、いくら睡眠をとっても僕がその体験を忘れる事はなかった。


(つづく)
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by tenpapa2013 | 2013-03-06 01:27

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