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根上さんとのセッション その6

 根上さんは、各右翼団体の事情を恐ろしく把握している。

 おそらくあの右翼は北方領土問題について強く行動する団体で、だから鈴木宗男逮捕の影響を聞いたのだ。

 そんなこと、交通をマヒさせてまでやることではないと思うかもしれない。

 確かに、もしその右翼が志を失った者たちだったら、ただの気ちがいの嫌がらせ以外の何物でもなかっただろう。

 だが、もし本当に志を強く持つ者たちだったとしたら、常識を超えて(だいたい通常の常識の範囲では、北方領土問題など絶対解決しない)自分たちを支持するものがいることを嬉しく思ったのではないか。

 そのあと僕の運転する車は、根上さんの指示で中野警察署へと向かった。

 中野警察署で、彼は警備課長(だったと思う)と話をしていた。

 そのあと中野区役所に向かうのだが、道を走っていると何かパトカーが多いなということに気づいた。

 最初は気のせいかと思ったが、明らかに多い。

 すれ違う車の10台に1台はパトカーだったりする。

 しかも、その台数はだんだん増え続け、区役所の前には何台かのパトカーと警官たちが立っていた。

 それを尻目に、根上さんは9階へと上がっていった。

 9階には選挙管理事務所がある。

 根上さんは、何週間後かにある中野区長選挙に立候補するために、届出用紙を取りにきたのだ。

 9階にも刑事たちがうようよしていたが、なぜかみんな面倒くさそうな顔をしていた。

 刑事が僕に話しかけてきた。

 「おい、お前名前はなんて言うんだ?」

 「絶対に言うな!!!」

 奥から根上さんの怒号が響いた。

 「ああ言ってるし、言えません。」

 「別に言ったって大丈夫だから言っちゃいなよ。おい、なんて言うんだ?」

 あまりしつこく聞くので、「先日目白署に逮捕されてるから、そこに聞けばわかります。」と答えた。

 「正直に言えばいいのに..」

 そういって刑事は離れていった。

 根上さんは、担当の人としばらく話をしていた。

 そのうち刑事がしびれを切らしたように聞いた。

 「根上ちゃーん、そろそろ帰っていいかい?」

 「まだだ!!7時までいろ!」

 ためいきをつく刑事たち。

 根上さんを警備しているというより、根上さんに警備させられているという感じだ。

 担当とのやりとりが終わった根上さんは、そのまま職員のみんなが仕事をしているところに入っていった。

 「おい、課長、元気か?」

 そう言いながら、課長さんらしき人の肩を叩いた。課長さんは無視だ。

 根上さんは、ひげも髪もぼうぼうの上、薄汚れたヨレヨレのジャージ姿だ。

 そんな格好の人間が突然職場に入ってきて(しかもまだ区長でもないのに)いきなり話しかけてきても普通は無視だろう。

 全く相手にしない課長さんを一瞥して根上さんは言った。

 「俺が区長になったら、お前は一番にクビだ。」

 そうやって、9階の全員に話しかけたあと、8階で同じように全員に話しかけ、7階、6階へと降りていった。

 6階には、会議中の札がかかった部屋があった。

 まさかここには入らないだろうと思っていたら、ノックもせずバタンッとドアを開けてそのまま空いている席に座った。

 会議をしていた人たちは、みんなポカンとして見ている。

 「続けろ」

 根上さんが会議を続けるように促すと、女の人がたまりかねたように言った。

 「何言ってるんですか!会議中ですよ!出て行ってください!」

 「わかったよ!」

 そう言って根上さんはバタンッとドアを閉めて出てきた。

 僕は、根上さんがみんなに話しかけてまわるのを、とまどいながらも実は好意的にもみていた。

 働く者全員に気兼ねなく話しかける、これは区長としてはとても良いことだからだ。(ただ、まだ区長になってないということが問題なのだが)

 そうは思ったが、会議室にまで乗り込むのはどうかと思い聞いてみた。

 「根上さん、さすがに会議中はまずくなかったですか?」

 そうしたら、
  
 「お前、何にも見てないんだな。今の会議、男一人であと全部女だっただろう。女に言わせてどうすんだ!はい、次!」

 これも今にして思えばだが、もし俺が暴漢だったらどうするんだ、そういう時のシュミレーションがまるでできていない(要は危機感がない)、そういうことを言いたかったのだろう。

 そうやって5階、4階と降り、3階についた。

 中野区役所の3階には、区の議会場がある。

 その時間は議会があったはずなのだが、根上さんが来てると聞いて、みんな帰ってしまっていた。

 誰もいない議事机の上に、段ボール箱が一つだけ置いてあった。

 その箱の中を覗いた根上さんが、ニヤリと笑った。

 「どうしたんですか?」と聞くと、箱にあった1枚のチラシを僕に見せた。

 若手議員の講演会のチラシだ。

 「こいつは見所があるんで応援してるんだが、こないだ事務局に電話して講演会ないのかって聞いたらないって言いやがったくせにしっかりあるじゃねえか。」

 そう言って、チラシをポケットにねじ込んだ。

(つづく)
by tenpapa2013 | 2015-11-09 18:01 | 根上 隆 | Comments(0)