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根上さんとのセッション その7

 区役所の玄関へ降りると、さっきまでいた警官はほとんどいなくなっていた。

 僕たちは、また車を走らせた。

 「根上さん、警察いっぱいいましたね。」

 そう僕が聞くと、

 「だから言ったろう。俺が動くと3000人からの警察が動くと。」

 「でも、何でそんなに警察が動くんですか?」

 「俺が呼んだ。」

 「はあ!?」

 「これから日本刀持って中野区役所に行くと電話したんだ。」

 それで中野署で警備課長に会ったのか。

 事の顛末はおそらくこうだ。

 根上さんは、日本刀を持っていくからしっかり警備するようにと中野署に伝えた。

 しかし中野署員にとっては、きっとこれは毎度の騒ぎなのだ。

 根上さんは、中野がホームタウンである。

 中野署の署員たちは、根上さんが決して刃傷沙汰を起こすような人物ではないことはよくわかっている。

 だからといって警備をサボるとあとでどんな目に会うかわからない。

 要はシュミレーションだ。

 根上さんは、警察の意識がなまらないように、こうやってシュミレーションをさせているのだ。

 早稲田通りを走っていると、何台かのパトカーとすれ違ったが、そのたびに根上さんは僕に車を止めさせ、わざとパトカーの前に飛び出したりする。

 「バカヤロー、危ねえぞ!!」

 スピーカー越しに警察の怒号が響くが、根上さんはおかまいなしだ。

 パトカーに向かってベロベロバーとやっている。

 交番があるとその都度車を止めさせ、交番のおまわりさんに何かちょっかいを出して帰ってくる。

 要は彼は警察が好きなのだ。

 この行為を、出会うパトカーそして見かける交番、全てに対してやっていた。

 少したって落ち着いた頃、根上さんが僕に聞いてきた。

 「そういえばのぶ、お前さっき刑事となんか話してたが、名前言わなかったよな?」

 「はい、言ってません。」

 「(ギロリと睨み)ほんとか?」

 「あ、えーと、あんまりしつこいんで目白署にパクラれたって話はしましたけど..」

 「んんあにーーーー!!!」

 そして、いきなりげんこつが頭に飛んできた。

 「いてっ!」

 「絶対何も言うなって言っただろうが!!それを何でお前はしゃべるんだ!!このバカヤロウ!!!」

 そう言いながら何発も何発も僕の頭をげんこつで殴った。

 「す、すみません..」

 「すみませんじゃない!!お前のような使えない奴は見たことねえ!!」

 「...」

 「で、どうするつもりだ?」

 「はい?」

 「どうすんだよ。まさかこのままごめんなさいで終わらせるつもりか?それは無理だ。」

 「無理と言っても..」

 根上さんとの関係にケリをつけるつもりできた僕だったが、もうそんなことは忘れてひたすらびびっている。

 何しろ根上さんの怒号は、山が割れるかのようなもの凄い声なのだ。

 僕が黙っていると、根上さんは言った。

 「じゃあこうしよう。俺はこれからある家に破壊工作をしに行く。お前をそれを手伝って俺から離れるか、それとも俺と一生このまま一緒にいるかのどちらかだ。」

 このまま一生という選択は、その時の僕にはなかった。

 「..破壊工作を手伝います。」

 「よし、じゃあこの先の辻を左に曲がれ。」

 言われたように、次の角を左に曲がった。

 「スピードを落とせ。こらっ音立てんじゃねえ、静かに行け。そうだ、そしてそこの脇に止めろ。」

 車を止めると、根上さんは後ろのシートからガムテープと何か工具のようなもの取り、「よし、俺が帰るまでここにいろ。戻ったらすぐに車を出すんだ、わかったな?」そう言って、その先にあるアパート目指して走っていった。

 少しして、根上さんが帰ってきた。

 「よし、車を出せ。」

 僕が音を立てまいとゆっくり発進すると、

 「いいから急げ!」

 そうして僕たちは、破壊工作先から逃げるように脱出してきた。

 そのあと、僕は根上さんと口を利かなかった。

 破壊工作っていったい何をしたんだろうという思いと、無事に根上さんから解放されるという気持ちが相まって何を話していいかわからず、ただ車を根上さんの自宅に向けて走らせた。

 そのあと根上さんは、僕が警察と話をしたことをまた蒸し返した。

 そして「お前のようなダメなやつは知らん!俺はここで降りる!」

 そう言って、車を降りてしまった。

 根上さんが車を降りてしまったので、僕は一人で車を根上さんの自宅に届けることになった。

 運転しながら、根上さんとの今日のことが全部思い出された。

 右翼にからんだこと、区役所での突飛のない行動、とんでもない数の警察が出動していたこと、そして最後にやっぱり怒られたことなど。

 「やっぱあの人は僕にどうにかできるレベルじゃないんだ..」

 自分の情けなさに悲しくなった。

 だがそのとき、何で僕は根上さんにまた会いにきたのか、その理由を思い出した。

 「そうだ、僕は根上さんとすっきり別れたくて、それで会いにきたんだった。」

 その瞬間、さっきまでの憂鬱がなくなった。

 その憂鬱感が逆に、今何を根上さんのためにしてあげられるのか、そういう考えに変わった。

 今の僕にできることと言えば..そうだこの立候補の用紙だ。

 これの記入をできるとこだけでも手伝ってあげよう。

 そうして根上さんの自宅に着いた僕は、着くなり立候補の届出用紙を広げて手引きを見ながら記入を始めた。

 根上さんの自宅には、Sさんという根上さんの面倒を見ている女性がいる。

 Sさんは、自分自身も昔学園闘争などで闘った方で、「何年かすればこの人が役に立つ時代が来ると思ってそれで助けてんのよ。」と以前会ったとき話していた。

 家につくなり届出用紙の記入を始めた僕に、Sさんは言った。

 「どうしたの?」

 「いやーまた根上さんに怒られちゃって。何発も殴られたけど、でも今は殴られたことが気持ちいいんです。それより何か彼のためになることをしたいと思って。これだけやらせてもらえますか?」

 そうしたらSさんが、

 「なんか気持ち悪いねえ。」

 と言うので、

 「今まで根上さんと一緒にいて、こういうことなかったですか?」

 と聞くと、

 「ないない、あなたが始めてよ、こんなの。」

 そこへ根上さんが帰ってきた。

 「おかえりなさい!」

 僕がそう言うと、根上さんは床に散らばった届出用紙に目をやって、そして手をさすりながら言った。

 「お前の頭固えなぁ、おかげで手が痛いよ。」

 その翌日、僕は根上さんと本当に楽しい時を過ごした。

 弁護士の無料相談会が近所であるからと言われ、それについていった。

 僕たちも困ったことがあったら、そういうサービスをもっと気軽に利用すればいいのだ。根上さんは、本当にいろんなことを教えてくれる。

 昼飯を食べに入った食堂で、根上さんはものすごい勢いで店に置いてあるマンガを読み始めた。

 食事がくるまでの間、食べてる最中、そして食べ終わったあともずっとずっとマンガを読み続け、時間になって店を出る寸前「やった!50冊読破したぞ!」と本気で喜んでいた。

 その後根上さん宅に戻ると、もう家に帰らなければならない時間になっていた。

 翌日親戚のおばさんが東京に出てくるので、ディズニーランドへ連れて行くことになっていたのだ。

 「名残惜しいけど、僕帰ります。根上さん、本当にありがとうございました!」

 そう言うと根上さんは、

 「待てのぶ、今おばさんに会ってはダメだ!会ったらおばさんが死ぬぞ!」

 僕と根上さんの間には、もはや全くのわだかまりもなかった。

 だからこそ、僕たちの上昇したエネルギーでは普通の人にダメージを与えかねない、そう心配して言ったのか、またはただ寂しかったからか、それはわからない。

 「大丈夫です(笑)根上さん、ほんとうにありがとね!」

 そうして僕は根上さんに駅まで送ってもらい、帰宅の途についた。

 根上さんにもらったエネルギーのおかげで、翌日のディズニーランドは本当に楽しい時になった。

 そして親戚のおばさんはもちろん今も健在である。

《第二部 完》
by tenpapa2013 | 2015-11-09 18:03 | 根上 隆 | Comments(0)