人気ブログランキング |

根上さんとのセッション 最終章

 当時の僕にはお気に入りの子がいた。

 れいこちゃんというニューハーフの子だ。

 ニューハーフと言っても馬鹿にはできない。僕なんか二度も女だと騙された。(一度ならわかるが二度というのは相当なものだ。僕がよほどのアホか、彼女がそのぐらいのかわい子ちゃんだということだ。)

 ニューハーフというのは、僕たちにはわからない悩みを抱えている。

 それはおそらく命ぐらい張らないと理解できない悩みで、僕は彼女のために命を張るつもりではいたが、もし僕に何かあったときのために代わりに命を張れる男として根上さんの連絡先を彼女に教えていた。

 僕はれいこちゃんを好きだったが、根上さんになら(彼女のためにも)彼女を渡してもいい、そう思っていた。

 僕は中野区役所でのデモンストレーションを終えて自宅へ帰ってきていた。

 自宅でくつろいでいると、知らない番号から電話が入った。

 「はい、もしもし」

 「小林先生ですか?」

 根上さんの声だ。また根上さんふざけているな、と思った。

 「こんにちは。のぶです。根上さんどうしちゃったんですか?突然いなくなって心配しましたよ。」

 「小林先生、実はですね、今警察にいて、いや、知人の家の窓ガラスを割ったら猫が逃げてしまって、それで...」

 「知人って?」

 「いや、それがその、昔から知り合いの女性で...」

 ははぁ、わかった。根上さん、何かやらかして彼女を怒らせて淋しいんだな。そう直感した僕はこう答えた。

 「根上さん、僕も根上さんにお話したいことがあったんですよ。実は、僕の友達にれいこちゃんってかわいい子がいて、その子と根上さんと仲良くなったらいいかな、なんて思ってたとこなんですよ。」

 「いや、だから、その知人のね、、」

 「根上さん、大丈夫。僕がちゃんと彼女のこと紹介しますからそんなに淋しがらないで...」

 「お前わかってない!」

 そう言ってガチャンと電話を切られた。

 これは後日わかったことだが、根上さんはそのとき本当に警察に捕まっていたらしい。

 知人の家の窓ガラスを割ったことが原因だが、根上さんのことをよく知る知人もいつもならそのぐらいのことで通報したりしないのだが、このときは割れた窓から飼っていた猫が逃げてしまったため、キレて警察に通報してしまった。

 その根上さんを捕まえた警察署というのが、根上さんにとってはあまり捕まり慣れていないところで、苦戦した根上さんは僕が弁護士だということで芝居を打とうして、先の電話をしてきたわけだ。

 そんなことをつゆも知らない僕は、全く検討違いの応対をしたわけだが、おかげで変なことに巻き込まれずに済んだ。

 そして、それから10年以上たつが、あのとき以来根上さんとは全く話をしていない。

 これでいいのだ。



《追記》2014年10月12日、根上さんは癌のため亡くなりました。
by tenpapa2013 | 2015-11-09 18:07 | 根上 隆 | Comments(0)